大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(秩ほ)2号 決定

本件抗告の趣意と理由は、申立人作成名義の「抗告申立書」と題する書面に記載のとおりであるが、要するに、東京地方裁判所は多数の政治被告人を抱えたいわゆる一〇、一一月事件の審理にあたり、被告人らの統一公判の要求を斥けて分割審理を強行することにより、裁判所自ら裁判の秩序を葬り去つているし裁判の威信などは少しも存在していないのである。秩序なき法廷においては公正な審理も期待できないし、適正な審判なども不可能である。抗告申立人は、法廷等の秩序維持に関する法律(第二条第一項)が重要な意味をもつていることを否定するものではない。しかし申立人と原裁判所との間には右法律についての見解に相異が存するわけで、原裁判所としては、自己批判して統一審理をすることによりはじめて民主社会における法秩序を維持する役目を荷うことができるに過ぎない。被告人の公判廷における所為は形式的には右法律の適用を免れないとしても、それは抗告申立人が司法の危機であることを指摘するため「こんな裁判で革命が起つたときは、お前達は、……」云々と発言し、裁判所が真摯に法を冒かしたことに対し自己批判をする以外は民主社会の法秩序を維持する行為を荷い得ないと言おうとしたのである。しかるに原裁判所は、言葉の表面的な意味だけを捉えて、抗告申立人の真意を理解せず、制裁手続においても釈明の機会を十分与えずに、抗告申立人に対して右発言の取消を求め、これを拒否するや直ちに抗告申立人に対し過料一万円の制裁を科したものであつて、これはとりも直さず前述の無秩序裁判の実体を示しているものである。一〇、一一月事件において分割公判を強行することは単なる退廷命令や機動隊導入という異常事態を打出すに止まらず、私選弁護人の辞任というような重大な事態にもなりかねないのであるから極力法廷秩序維持に関する法律の適用はさしひかえるべきである。よつて、原決定の取消および同裁判の執行停止を求めるため本抗告の申立に及んだというに帰する。よつて、本件抗告事件記録および本案審理の江田明大他七名に対する兇器準備集合等被告事件記録を調査して考察するに、抗告申立人は右江田らに対する兇器準備集合等被告事件の第一回公判期日が昭和四六年二月二日午前一〇時から東京地方裁判所刑事五〇三号法廷で開かれた際、これを傍聴していたものであるが、検事が起訴状を朗読中、被告人らが裁判長の着席・発言禁止命令に従わずに、交々立ち上つて裁判長の訴訟指揮を非難したため退廷を命ぜられたところ、同日午前一一時二〇分ごろ傍聴席において大声で「こんな裁判つてあるかよ。」と発言し、裁判長から法廷の秩序を維持するため退廷を命ぜられたが自ら退廷せず、そこで裁判長は警備員をして退廷させようとしたが、これに従わず、裁判官席にむかつて「こんな裁判で革命が起きたらいつかお前らは……」と暴言をはき、そのため抗告申立人は拘束を命ぜられ、その後制裁手続によつて過料一万円の制裁を科せられたものであることを認めるに足りる。しかして、原決定は、抗告申立人の退廷を命ぜられた際の「こんな裁判で、革命が起つたときはいつかお前達は……」という言葉が裁判の威信を著しく害する暴言に当たるとして、抗告申立人に対し制裁を科したものであることは判文上明らかである。しかるところ、法廷等の秩序維持に関する法律第二条第一項によれば、「暴言、暴行、けん騒」は最も悪質な言動の例として掲げられており、同条の暴言たるには、発言内容そのものが、前後の事情を合せて考察し、裁判の威信を著しく害するものであれば足りるものというべきである。もとより、抗告申立人は傍聴人であるから、傍聴をするにあたつては静粛を旨とすべきで、裁判所の審理について意見を述べることは許されていないものであるところ、抗告人が傍聴席で「こんな裁判つてあるかよ」と大声で発言し、更に退廷を命ぜられた際、「こんな裁判で、革命が起つたときはいつかお前達は……」などといい、革命の節は裁判官個人に応報として禍害の及ぶべき旨を意味する発言をしたのはその真意が前叙田立人が主張する如き意図に基づくものであると否とを問わず、裁判所の威信を著しく害する暴言に当たることは言うまでもない。

次に、原裁判所が本件制裁手続において抗告申立人に対し発言を取り消す意思があるかを確めるなどして弁解の機会を与えたことも、本抗告事件記録によつて明らかであつて、十分な釈明時間を与えられなかつたというが如きは単なる弁解に過ぎず、制裁手続は法律に準拠した正当な処置であつたと認められ、原裁判所の制裁手続には手続上の法令違背のかどは存在しない。原決定には、何ら法令違反の廉はなく、よつて原決定は洵に正当であるというべきであり、なお、原決定の執行を停止すべき事由も見出し得ない。それ故、所論は理由なきに帰する。

(井波 足立 丸山)

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